①からの続きです。
ここでは、1話を観て感じた個々のインプレッションをまとめ、気になった点を書き留めておきます。
高咲侑について
これまでの作品群は、主人公ポジションである穂乃果や千歌が、他のメンバーを引っ張っていく構図でした。
そして、彼女自身も、スクールアイドルとして舞台に立ち、劇中のスクールアイドルの祭典「Love Live!」で優勝を目指すことになります。
彼女は主人公的な立ち位置になりますが、あくまでも「スクールアイドル」の活動を支えるサポーターとしての役割を担います。
つまり、彼女自身がスクールアイドルとして舞台に立つことはありません。
あくまでもスクールアイドルを愛する、ファンとしての側面が強いと感じました。
そもそもなぜ、彼女はスクールアイドルに夢中になったのか。
このアニメの中では、結城せつ菜というスクールアイドルとの出会いによるものであることが示されました。
それは侑の世界が変わり始めたきっかけであり、彼女の中に「トキメキ」を生み出します。
そして彼女はスクールアイドルをおいかける一ファンとなりました。
このスクールアイドルを好きになっていく過程は、まさにリアルにおける我々ラブライバーと同じです。
私たちもμ’sやAqoursの活動を通じて「トキメキ」を感じて、その活動の軌跡を追いかけていく存在です。
このことからわかるのは、高咲侑という存在は、「ニジガク」の世界における「You」(あなた)であるということです。
私たちは、これまでのシリーズでは、いわゆる「神」の視点でしか物語を追うことができませんでしたが、「ニジガク」では侑として、この世界の一員となることができたのです。
そこで彼女は、幼馴染である歩夢と共に、せつ菜に会うためにスクールアイドル同好会の部室探しを決行します。
このへんの猪突猛進な感じは、穂乃果を連想させます。
(とある高校に実際にある同好会のようです。)
こういった、あきらかに「超」が付くマイナーな活動も、普通に「同好会」として認められているのです。
虹ヶ咲学園が巨大なマンモス校であるゆえ、多様性を受け入れる土壌が育っているという、一つの舞台装置として存在していることがわかります。
さぞショックを受けるだろう、と思いきや。
それどころか「やめる理由があったんだろうし。」と、あっさり会いに行くのをやめてしまいます。
アイドルやるってそういうことでしょ。
自分の夢はまだないけどさ。
夢を追いかけてる人を応援できたら、私も何かが始まる。
そんな気がしたんだけどな。なんてね。」
至ってドライな反応で、すごく「大人」なことを言ってしまいます。
これはおそらく侑が、我々ラブライバーを投影している存在だからでしょう。
私を含め、多くのラブライバーは、アイドルである彼女たちを応援したりサポートしたりはしますが、実際にアイドルになってやろうとは考えません。
アイドルというのが限られた一部の人間が、実力だけでなく強力な運やコネによってのし上がっていかなければならない存在であることをわかっているからです。
侑が我々と同じ考えを持つ存在であるからこそ、彼女は自分自身が「スクールアイドル」になろうとは、絶対に考えないのです。
(実際の作劇の上では、そういう設定で固定しておかないと、ニジガクのストーリーは成り立たなくなるという理由もあります)
自分にはアイドルになる夢を追いかけることはできない。
けれど、アイドルになりたい人、アイドルとして今まさに歩んでいる人たちを、応援したい・サポートしたいという気持ち。
これは、アイドルファンであるリアルの我々も同じです。
それが「芸能界」という自分からみて遠い存在ではなく、侑と同じ女子高校生という身近な存在であれば尚更応援したい!
だから、侑は「アイドル」ではなく「スクールアイドル」にトキメいたわけです。
そのせつ菜がスクールアイドルを辞めてしまう。
それどころか、学校から「スクールアイドル同好会」自体が消滅する。
そうなってくると、侑である我々は「しょうがないよね、アイドルって厳しいから」と自分を納得させるしかなかったのです。
(ちょっといくら何でも急に冷めすぎだろうと思いましたが、侑はスクールアイドルのファンになったばかりでそこまで思い入れがあったわけではありませんから、そんなもんだろうなと理解しました)
上原歩夢について
一方、侑の幼馴染である歩夢についても考えてみます。
歩夢に似合うと侑は進めますが、かわいいとは思うけど子どもっぽいと拒む歩夢。
小学生のときまでは着ていたけれど、そういうのは卒業したとのこと。
侑は、かっこよくて、かわいかったと、すごいトキメキを感じたと興奮を抑えられません。
このへん、もう完全に穂乃果ですね。
こっちは花陽と同じように、引っ込み思案で自分のやりたいことを上手に主張できないタイプのようです。
しかし、その翌日、階段下で侑と落ち合った歩夢は、あくびをしていて。
「部室棟」と書かれた柱をじっとみて。
スクールアイドル同好会の部室に行くと言って手を引っぱる侑をハッとした表情でみやりました。
「2年生になったら予備校に行くからスクールアイドルは追いかけられないんじゃ」
「私まだ(心の準備ができていない)」
と、建前を並べますが……。
そして「私、好きなの。ピンクとか、かわいい服だって、今でも大好きだし、着てみたいって思う」と、彼女は自分の気持ちを侑に伝えることに成功しました。
なぜ、彼女は主張することができたのか。
それはせつ菜のライブで聴いた『CHASE!』の歌詞にあります。
走り出した!思いは強くするよ 悩んだら君の手を握ろう大事な気持ち まるで裏切るように過ごした昨日にはもうバイバイして……まぶたを閉じれば 何度だって出会える高鳴る鼓動 信じる未来を ここに宿す世界が色づいて光りだす瞬間を 君と見たい その心がアンサー走り出した!思いは強くするよ 悩んだら君の手を握ろうなりたい自分を我慢しないでいいよ 夢はいつか ほら輝き出すんだ!弾みだした!思いは嘘じゃないよ 涙から生まれる希望も目には見えない力で繋がる 夢はいつか ほら輝きだすんだ!
この曲、この歌詞が、「ニジガク」の第一話で、オープニングをすっ飛ばしてまで、このタイミングで披露された理由。
おそらく、これが第1話の、いや「ラブライブ!」が描きたいテーマを端的に表す楽曲だからだと考えます。
すなわち、歩夢やその他大勢の夢追う人が「夢への一歩」を踏み出すために用意されているのです。
追いかける対象となるのは、己の「夢」や「希望」、「なりたい自分」でしょうか。
夢はいつだって、輝こうと思ったその瞬間に輝く。
だから、自分の夢、なりたい自分をあきらめないで。
自分の「本当にやりたいこと」を、我慢しないで追いかけてごらん。
強烈なメッセージ性が込められた『CHASE!』という楽曲の力。
それを、自分と変わらない普通の高校生が、自分の気持ちに正直に歌っている。
よって、曲に込められた、せつ菜の「想い」を受け取った歩夢は。
その名の通り、夢に向かって歩みだすのです。
本当にすごいと思ったよ。自分の気持ちをあんなにまっすぐに伝えられるなんて。
スクールアイドルって本当にすごい。私もあんな風にできたら、なんて素敵だろうって。」
繰り返しますが、歩夢は侑のように、自分の感じたことに対してまっすぐに思いをぶつけるのは苦手な子なのです。
ゆえに「侑ちゃんのように素直に自分の気持ちを伝えられるようになりたいな」と思っていたはずです。
しかし、自分にはそれをするだけの「勇気」も「自信」もありません。
だから、彼女はたった一人の観客である侑に、階段を上り「ステージ」から自分の気持ちを歌に乗せる。
ミュージカル的要素を持つ、ラブライブ!ならではの手法で。
「不思議の国のアリス」と歩夢
『Dream with You』のモチーフは、第1話冒頭にも出てきた「不思議の国のアリス」です。
夢の中とは言え、出てくるキャラクターたちはとっても変。
それらに翻弄されながら、いい加減で、狂った世界の中で強制的に環境に適応させられる。
最後には、そんな環境にうんざりした彼女は、体の大きさを「あわせる」キノコを食べることなく、夢の世界から脱出する。
このアリスの文脈において、「体の大きさ」とは「自分の気持ち」を、「環境に適応させる」とは「自分の気持ちを押し殺す」ことを意味します。
だから、歩夢は「不思議の国のアリス」のかわいい衣装で踊るのです。
「スクールアイドルをやりたい!」という気持ちを、勇気や自信がないゆえに「押し殺している」状況からの脱却がメインテーマなのです。
これはμ’sの凛がメインで描かれた、ラブライブ!第二期5話「新しい私」でも描かれたテーマです。
なるほど、脚本が変わっても、ラブライブ!の根幹のテーマはぶれていない。。。
昔から作品を追っている一ファンとして本当にうれしい限りです。
歩夢は思います。
私は、スクールアイドルやってみたい!
……でも私一人ではまだ怖い。
勇気も無いし、自信も無い。
だけど、私には小さい頃から一緒だった幼馴染がいる。
夢を追いかけている人を応援してくれる、信頼できる幼馴染がいる。
だから「二人で始めようよ、侑ちゃん。」と訴えるのです。
「自分に素直になりたい。だから私の夢を一緒に追いかけてほしい。」と、あなたに訴えるのです。
当然、あなたの分身である侑は、「もちろん、いつだって私は歩夢のとなりにいるよ。」と全面的に肯定するのです。
ここから、歩夢はスクールアイドルとして、侑は歩夢を支える「ファン」であり「サポーター」として、新たな一歩を踏み出すことができました。
この後半の心象表現、そしてきれいな物語のENDは、個人的に大好物でした。
(2020/10/10追記)
フォロワーさんからの意見で気づけたこと。
(2020/10/10追記)
フォロワーさんからの意見で気づけたこと。
「不思議の国のアリス」には、白い薔薇をペンキで赤く塗るトランプの庭師たちが登場します。
赤い薔薇でなければ、女王様は怒って庭師たちの首をはねてしまうからです。
『Dream with You』のPVでは、歩夢は赤い薔薇のつぼみに囲まれていました。
これは本当の気持ち(白)を、偽物の気持ち(赤)で隠していることの表れなのです。
これは、歩夢自身が隠していた自分の本当の気持ちを打ち明けることができたというメタファーになっているのです。
太宰治「女生徒」と桜坂しずく
途中、しずくが演劇部で活動している場面がありました。
あのプロットで使われていたのが、太宰治の「女生徒」の一節。
この「女生徒」が使われているのも、クリエイターの意図があると考えなければなりません。
「女生徒」は、思春期の女の子たちの、とりとめのない複雑な感情や心境が描かれたエッセイです。
スクールアイドルと演劇部の二足の草鞋を履いているしずく。
ニジガクのスクールアイドルだったのは短い間だったようですが、彼女はニジガクに転入する前からスクールアイドルとして活動してきたという設定があります。
演劇部の活動は、彼女にとってはスクールアイドルとして高みを目指すうえでのステップに過ぎなかったようですが、スクールアイドル同好会が無くなった今、何を思うのでしょう。
そういった感情を彼女が抱えていることを「女生徒」の一節を使って、我々に示しているのでしょうか。
本来この一節は「幸福は一生、来ないのだ。……けれども、きっと来る、あすは来る、と信じて寝るのがいいのでしょう。」までで意味のあるセンテンスになるのです。
ところが「けれども」で部長にさえぎられてしまいます。
掛け持ちじゃなくなったと喜ぶ演劇部部長。一方のしずくの表情は曇ったまま。
しずくは演劇部の、もしくは演劇部部長という「カセ」を乗り越えなくてはいけないことを暗喩しているかのようです。
ちなみに、演劇部部長は、レヴュースタァライトで華恋を演じた小山百代さんが演じていらっしゃいます。
こういった関連性を持たせた配役は、両作品のファンとしては思わずニヤリとしてしまいますね。
サブキャラクターについて
この第1話は、歩夢と侑のはじまりの物語として機能しているので、他のキャラクターの扱いはだいぶ小さくなります。
ここでは、私のインプレッションを簡単に記していきます。
☆天王寺璃奈について。
彼女は「ラブライブ!」の世界の中では「璃奈ちゃんボード」を使って自分の気持ちを相手に伝えるという、かなり尖ったキャラクターです。
そりゃそうだ、いきなりボードを顔にあてている子に「スクールアイドル同好会」の部室の場所聞けないよね。。。
ある意味現実的です。
スクスタではボードを常用していましたが、アニメにおいて璃奈は感情表現する必要があるときだけボードを使っているのかなと感じました。
今回はただのモブキャラみたいな感じになってしまいましたが、今後の彼女の活躍?に期待したいところです。
☆宮下愛について。
「スクールアイドル」の部室ができたばかりにも関わらず、100近くある同好会の中ですぐ212号室にあることを教えてくれた愛。
☆中川奈々について。
4人の様子を階段上からみていたのはおそらく彼女。
スクールアイドル同好会を廃部となったと、あえてあのタイミングで看板を外しにきて、さらにマンモス校である生徒全員の名前を憶えているから2人の名前を言い当てた、というのは本当なのだろうか。
☆朝香果林について。
☆中須かすみ、桜坂しずく、近江彼方、エマ・ヴェルデについて。
全員がスクールアイドル同好会のメンバーでしたが、廃部となってしまったことで、桜坂しずく以外は行き場をなくしてしまった彼女たち。
かすみはこの状況でもあきらめませんが、彼方とエマは途方に暮れています。
鍵となるであろうかすみの活躍にも期待です。
「ニジガク」のはじまりの場所
結城せつ菜が『CHASE!』を披露した場所は、ダイバーシティ東京プラザ2Fにあるフェスティバル広場です。
あれから早いもので2年。
あのときはAqours全盛期で、完全にゲーム内のグループという立ち位置の「ニジガク」でした。
他の2グループが作ったレールとは、また別のアプローチが必要で、実験的な立ち位置でもあった彼女たちが多くのラブライバーに受け入れられて、ついにアニメ化することになり、一ファンとしては非常に感慨深いです。
そういった理由なども、アニメの中で暗示されたりするのでしょうか。
「コッペパン」の果たす役割
ラブライブ!系列の作品においては、動物(アルパカや犬のしいたけ)が登場しますが、「ニジガク」1話では動物が登場しませんでした。
その代わりに、必要までに「コッペパン」が登場していることに気が付きました。
今作では「コッペパン」が、意味のある小道具的な役割を果たす可能性があり、少し注目しています。
「レモン塩カスタード味」のコッペパンを食べている歩夢。
当たり前のように間接キスで食べあって、侑の口についたパンカスを食べる歩夢。
いくら小さい頃からの親友、幼馴染だからといって、距離感がほぼ0なのはちょっと異常に見えてしまいました。
それほどまでに親密なさまを示していたのか、それとも歩夢の侑への依存の強さを示しているのか。
きっとここまでベッタリな距離感を見せておいて、10,11話くらいで喧嘩させるつもりだったりして……ね。
ちなみに後半部分においては、限定の「ラフレットチーズはちみつ味」のコッペパンを半分こにして食べています。
これ実際にお台場で販売されてたら面白いのに。ちなみに後半部分においては、限定の「ラフレットチーズはちみつ味」のコッペパンを半分こにして食べています。
(2020/10/08追記)
歩夢の選んだパスケース
歩夢が一番最後に渡したもの。
これ、何度見ても何かよくわからなかったのですが、
Twitterなどで情報収集してみると、冒頭に出てきたパスケースとのこと。
冒頭で、侑に「いまいち、トキメキが足りない」と言われたこのパスケースを、あえて、歩夢は買ってプレゼントした、ということは……。
侑にとっては「トキメキが足りない」パスケースも、ピンクでかわいいものが好きな歩夢にとっては十分「トキメく」ものであったということであり、これからはそういった自分の気持ちに正直でありたい、ましてや幼馴染の侑には私の正直な気持ちをどうか受け取ってほしい、という表れなのでしょうね。
いやー、これは気が付かなかった!
ここまで、第1話の内容について振り返りながら、場面における私の解釈について記事にしました。
第2話以降は、もっと簡潔に、各話における最も訴えたい(魅せたい)テーマ性について、解釈してみようと思います。
一読いただきまして、ありがとうございました。
コメント