TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)
著者:吉本 ばなな
販売元:中央公論社
(1992-03)
販売元:Amazon.co.jp
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病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夏のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った――。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかなえられないきらめきを描く、切なく透明な物語 第二回山本周五郎賞受賞
(本裏表紙より)

ここ最近の小説の中でかなりのハイペースで読めた作品。
この作品に出会ったのは、1996年のセンター試験の過去問を解いているとき。
ちょうど現代文第二問で、この作品が取り上げられていた。
この部分は「告白」のp114~117に書かれている。

自分は評論家ではないから、この作品のここがいいだとか、ここがおすすめだとか、そんなことは書けない。
素敵だなと思うところをちょっぴり引用して、残しておきたいと思った。
本を読んだのは4日前なので、そんなに細かく覚えていないが、印象に残った部分はかなり多い作品だった。
また全体的に読みやすく、活字が苦手な自分でも一息に読んでしまえる作品だった。
ばななさんの作品の特徴のひとつらしい。

この作品は次の一言からはじまっている。

『確かにつぐみは、いやな女の子だった。』

本のタイトルにもなっている「つぐみ」を一言で言い表すとコレ。
体が弱く、医者から短命宣言をされているつぐみは、まわりがチヤホヤと甘やかした結果、『意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢い』人間になってしまったという。
センター試験で読んだ時もすごく男言葉だったから、つぐみって男の子なのかと思ってしまうが、単にこれは口が悪いからである。
でも彼女は『黒くて長い髪、透明に白い肌、ひとえの大きな、大きな瞳にはびっしりと長いまつ毛がはえていて……神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見』であり、『そとづらだけは別人のようによ』い人間である。
男たちは彼女にコロッと騙されてしまうのだから、読者の印象は「悪い女」「いやな女」というイメージになってしまいがちなのだが、自分はなんかこの物語を読みすすむにつれて、今の言葉でいう「ギャップ萌え」というやつを感じてしまう。
語り手であるまりあは端役であり、主人公はあくまでつぐみで、まりあよりもむしろつぐみに、自分はすごく感情移入してしまう。

とくに「お化けのポスト」「穴」のエピソードでは、つぐみの人間の底力というのか、一体どこからそんな気力がわいてくるのかみたいな、すごく不思議な感じがした。
グワーッみたいなおりゃーみたいな、そういう力が活字から伝わってくるようだ。
何かのエピソードを受けたこの破天荒な行動に、涼宮ハルヒを思い出した。
だがつぐみは、なんかハルヒ以上の行動力と気力の持ち主だと思う。

好きなつぐみのセリフとして、「よそ者」P73がそのひとつ。
つぐみの根元にあるゆるぎない信念というか、これが私の生き方なんだっていうのを語っている部分だ。

『食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい。……後悔も、良心の呵責もなく、本当に平然として「ポチはうまかった」と言って笑えるような奴になりたい。』
『そう、わけのわかんない奴。いつもまわりにどこかなじめないし、自分でもなんだかわかんない自分をとめられず、どこへ行きつくのかもわかんない、それでもきっと正しいっていうのがいいな』

なんか自分もこんなわけのわかんない奴なんだろうなって思った。
でもわけわかんなくても正しいっていえる、何だろう、この文章の言葉を借りるならば、自分の中にある鏡っていうのを、自分はまだ持てていないように感じる。
つぐみにすごく感情移入してしまうのは、自分のつぐみへのあこがれなんだろうか。

「夜のせい」とエピソードは読んでてすごく楽しくなった。
自分も最近眠れない日が続いていたので、そんなときは深夜の街を徘徊してみるのもいいかもしれない。
職質されてしまうかもしれないけれど、たまには家を飛び出してどっかでゆっくり音楽を聴いたり、ファミレスのドリンクバーを飲みながら本を読んだりなんて、すごく楽しそうだなって思う。

「告白」の『おまえを好きになった』と、恭一に告白するシーンはとってもかっこいい、っていうか、男らしい。
こういうストレートな告白って、たとえフラれても未練残らないじゃねって思う。
ここもすごく自分と重ね合わせてしまう。

ここから先の章で、だんだん物語は佳境に入っていく。
最初この本をとって読み進んでいた時、つぐみという主人公の死が近づいている感じがしたが、実際は…。
なんかばななさんはバッドエンド」が嫌いみたい。
そこになんか救われた感じがした。
映画にもなっているらしいので、そこから入るのもありかもしれない。
でもこの小説はすごくばななさんの世界観に引き込まれるので、ぜひ手にとって読んでほしい一冊だなと思った。
そして、ばななさんがあとがきで『つぐみは私です。この性格の悪さ、そうとしか思えません。』という一文が、他の作品を読んでみたい気を起させた。

素敵な物語に皆様が出会えますように。